中本保男(昭和50年卒)
2020年はベートーベン生誕250年にあたる年でした。
この年は世界各地でベートーベンが演奏される予定でしたが、新型コロナウイルス禍でほとんどの演奏会は中止になりました。
偶然とはいえ何か「運命」的なものを感じました。
そんな非常時の中でベートーベンを一日一曲聴き続けた人がいました。新保祐司氏です。
私は新保氏のことは知りませんでしたが、本屋でたまたま氏の『ベートーベン一曲一生』(藤原書店、2020年11月30日初版)を見つけ面白いことをする人がいるものだと興味を持ち急いで頁をめくりました。
ベートベンと言えば第9を始めとする交響曲やピアノ協奏曲、バイオリン協奏曲、月光ソナタ、クロイツェルソナタなどが有名ですが、新保氏に倣ってこの機会に日頃あまり聴くことのないピアノソナタ、チェロソナタ、弦楽四重奏曲をまとめて全曲聴いてみることにしました。
レコード店で手頃な値段で全曲を揃えることが難しかったのでAmazonで以下のCDを購入しました。
・ベートーベン:ピアノソナタ全集(マウリツィオ・ポリーニ)
・ベートーベン:チェロソナタ全集(ロストロポーヴィチ$リヒテル)
・ベートーベン:弦楽四重奏曲全集(アルバン・ベルク弦楽四重奏団)
平日は仕事があったので新保氏のように毎日一曲という訳にはいきませんでしたが、週末に二曲三曲と聴き続けました。コロナ禍の時だからこそできた新鮮で貴重な体験でした。
全曲聴いてみて何度も聴いてみたい曲が絞られてきました。何度も聴いてみたいということは汲み尽くせないほど底が深く飽きることがないということです。
ベートベンは57歳で生涯を終えましたが、私はその歳を幾年か超えました。
健康寿命を考えると私の余生もそんなに時間が有り余っているわけではありません。
そこで今回聴いた作品群の中から絞りに絞ってこれからも繰り返し聴きたい曲を選んでみました。
結果、残った曲は以下のとおりです。これらの曲は機会があれば生の演奏会でも聴いてみたいと思っています。
・ピアノソナタ第30番
・ピアノソナタ第31番
・ピアノソナタ第32番
・弦楽四重奏曲第7番
・弦楽四重奏曲第14番
・弦楽四重奏曲第15番
「不要不急」とは何でしょうか?
兼好法師は『徒然草』第123段で人が励むものは「食」「衣」「住」に加えて「医」の4つを挙げています。
そして「この四つのほかを求めいとなむを驕とす」と言っています。驕(おごり)とは贅沢のことです。
兼好法師に言わせれば音楽を楽しむことは贅沢なことだったかもしれません。
しかし考えようによっては新型コロナ禍の非常時だったからこそ贅沢な時間を持つことができました。
お陰でコロナ禍にあってベートーベンは「緊急不可欠」ではないにしても「不要」ではなかったことを知ることが出来ました。
以上